東京高等裁判所 昭和24年(新を)523号 判決 1949年10月22日
被告人
森卯平
主文
原判決を破棄する。
本件を墨田簡易裁判所に差戻す。
理由
前略
弁護人の論旨第一点について
窃盜罪が既遂の域に達するには他人の支配内に存するものをその他人の支配を排除して自己の支配内に移すことを必要とすること所論の通りである。しかうして窃盜犯人が目的物件を屋内から取出し未だ構外に搬出せないような場合に構内は一般に人の自由に出入し得る場所で構内から物件を構外に搬出するに何等障礙を排除する必要のないような場合ならば犯人が目的物を屋外に取出すと同時に目的物の占有者の支配を排除してこれを自己の支配内に移したといい得るから窃盜の既遂を以て論ずることを得るが、目的物件を屋外に取出しても構内は一般に人の自由に出入すへることができず更に墻壁、門扉鎖、鑰等があつてその障礙を排除しなければ構外に搬出することができないような場合には目的物件を右障礙を排除して構外に搬出しない以上は未だ占有者の支配を排除して自己の支配内に納めたということはできないから仮令窃盜犯人が目的物件を構内の管理者に氣付かれないような場所に隠しておいたとしても窃盜の既遂を以て論ずるのは無理である。蓋し斯樣な場合には構内全体に完全に管理者の支配が及んでいるからである飜つて本件を見ると被告人は車庫からタイヤ二本を盜出したがこれを構外迄搬出せず車庫附近の材木を積んである所に隠しておいたのは何故であるか搬出することは容易であつたが被告人の都合によつてしなかつたものであるが又前記のような障礙があつてこれを排除し難かつた事情に基くのであるが判然しない。
原審はこの点について審理を盡さず直に窃盜の既遂を認めているのは前記の理由によつて失当である。論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。
以下省略